相続登記とは?
相続登記とは、亡くなった方名義の土地や建物などの不動産がある場合、相続人が所有権移転登記をすることを指します。相続登記を含め、不動産登記を管理しているのが「法務局」という役所です。不動産の所在地によって法務局の管轄が決まります。相続登記は、それらの管轄法務局に申請するのです。
なお、相続不動産の売却を考えている場合には、あらかじめ相続登記を済ませておかないと支障をきたすことがあります。登記上の所有者と現在の所有者が異なってしまうからです。
相続登記にかかる費用
相続登記にかかる費用は、大きく分けて以下の4つとなります。
- 不動産の調査費用
- 必要書類にかかる費用
- 登録免許税
- 司法書士報酬
各費用について説明します。
不動産の調査費用
相続登記を始めるにあたってやらなければならないのが、相続不動産の現状を調査することです。最初に、相続不動産の所在や地番、家屋番号を調べます。所在などは、固定資産税納付書に記載されています。
不動産の数が多い場合には、市町村役場(東京23区の場合は都税事務所)から名寄帳を取り寄せます。名寄帳には、各不動産の所在などが記載されています。名寄帳の費用は、各自治体によって金額が異なりますが、1通あたり200円~450円とお考えいただければいいかと思います。
次に所在などの情報をもとに、最新の不動産登記簿謄本(不動産全部事項証明書)を入手します。不動産登記簿謄本は最寄りの法務局の窓口で入手できますが、郵送やインターネットでも取得可能です。
不動産登記簿謄本は、不動産の戸籍だとお考えください。不動産の所有者が誰か、不動産に抵当権などの担保が設定されていないかなどの最新の状況を調査できます。不動産登記簿謄本の取得費用は、法務局から直接入手する場合は1通600円。インターネットであれば1通500円となります。
必要書類に掛かる費用一覧(実費)
下記の価格はあくまで取得の実費です。これらは各相続状況に応じて、必要な枚数などが異なります。
相続登記の必要書類 | 書類の取得費 |
---|---|
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書) | 450円 |
除籍謄本(除籍全部事項証明書) | 750円 |
改製原戸籍謄本 | |
住民票の除票 | 200円~400円 |
戸籍の附票 | |
住民票 | |
固定資産税評価証明書 | 200円~450円 |
印鑑登録証明書 |
※いずれも1通分での費用になります。なお、住民票から印鑑登録証明書までの取得費は、市区町村ごとによって異なるので注意しましょう。
登録免許税
登録免許税とは、土地や建物などの不動産の登記手続きをする際に国に納める税金の一種です。固定資産税の計算方法は固定資産評価額に、法律で定められた税率を乗じて税額を算出します。固定資産評価額は、毎年送られてくる固定資産税納付書に記載されていますが、固定資産評価証明書を市町村役場から入手した方がより安全かつ確実でしょう。
登録免許税の計算例
相続登記の税率は、法律上0.4%と決まっています。相続不動産の評価額を2000万円とすると以下の計算式が成り立ちます。
2000万円(相続不動産評価額)×0.4%(相続登記の法定利率)=8万円
つまり、この例の場合の登録免許税は、8万円となるわけです。
登録免許税税率が2%になるケース
相続登記に関連して、似た制度に遺贈があります。相続人以外の方にも、相続財産を遺贈することは認められています。しかし、注意していただきたい点があります。遺贈の受遺者が相続人以外の方の場合は、登録免許税税率が0.4%ではなく2%になってしまいます。つまり、先程と同様相続不動産の評価額を2000万円として計算すると以下になります。
2000万円(相続不動産評価額)×2%=40万円
登録免許税免税措置
令和6年4月1日からの相続登記義務化に伴い、登録免許税の免税措置が令和7年3月31日まで実施されることになりました。その条件は以下になります。
- 対象の相続不動産が土地のみであること(建物は対象外)
- 固定資産評価額が100万円以下であること
司法書士報酬
司法書士の費用・報酬は、現在自由化され標準報酬というものは存在しません。各司法書士が自由に決めることができます。とは言っても、相場というものがあります。各地域によって金額には差がありますが、おおよそ3万~12万の範囲であることが多いとされています。
しかし、注意していただきたいのは、この金額はあくまで登記申請を代理した場合の報酬だということです。相続人や不動産の数が増えたり、戸籍などの関係書類を代理取得した場合は費用が別途追加されるケースもあります。
一番いい方法は、司法書士に相続登記を依頼する前に見積もりをとることです。見積もりの内容をご納得いただいた上で、相続登記を委託なさることをお勧めします。
相続登記の費用を負担するのは誰?
相続登記の費用を誰が負担するのかは、相続登記にかかわる方にとって、気になる問題だと思います。基本的には、実際に相続不動産を取得する方が負担するのが一般的でしょう。しかし、最終的には各相続人間で話し合われ、負担する方を決められているケースが多いかと思われます。
ここでは、遺産分割を「現物分割」「代償分割」「換価分割」「共有分割」の各パターンに分けて説明します。
現物分割
現物分割とは、相続人が複数で、なおかつ相続不動産が複数の場合に起こり得る遺産分割の方法です。
例えば、相続不動産が不動産Aと不動産Bの2個あったとします。遺産分割の結果、相続人Aが不動産Aを相続し、相続人Bが不動産Bを相続したとします。この場合は、不動産Aに関する相続登記費用は相続人Aが負担し、不動産Bに関する相続登記費用は相続人Bが負担するのが一般的でしょう。
代償分割
遺産分割の結果、特定の相続人が不動産を相続した場合に「代償分割」に当てはまるケースが発生することがあります。不動産を相続した相続人がその代償として、金銭をほかの相続人に与えるケースです。
この場合の相続登記の費用は、相続不動産を取得した相続人が負担することが多いと思います。しかし、この相続人だけが負担が多くなる場合は、ほかの相続人との話し合いが必要になるでしょう。
換価分割
相続不動産の売却を前提に、相続人の共有として相続登記を行います。このケースでは、各相続人が相続した持分の割合に応じて相続登記費用を負担するのが一般的です。
共有分割
遺産分割の結果、相続人全員がそれぞれの持分で相続不動産を共有するケースです。このケースも、各相続人が持分の割合に応じて相続登記費用を負担するのが一般的でしょう。
自分で行った場合と司法書士に依頼した場合の費用
相続登記は自分で行うことも可能ですが、手続きが複雑でミスが発生しやすい一方、司法書士に依頼すると確実かつスムーズに進めることができます。なお、司法書士へ依頼した場合は司法書士報酬が追加されるのみで、書類費用や登録免許税は自分で行う場合でも必須になります。
相続登記の費用をより理解しやすいように具体例を挙げてみたいと思います。下記のような相続状況であった場合の金額を想定してみましょう。
- 被相続人:亡山田A郎
- 相続人:山田B子(妻)・山田C男(長男)
- 相続財産:自宅不動産(土地、建物)
- 相続不動産評価額:2000万円
- 必要書類(戸籍など):通数12通
- 遺産分割後の相続不動産取得者:B子
必要書類の取得価格
被相続人や相続人ごとに準備する書類は異なります。なお、被相続人(A郎)の書類や登録免許税の金額を確認するのに必要な固定資産評価証明書などは、事前に誰が準備するかを相続人間で話し合っておくとよいでしょう。これらの点を踏まえて、準備する書類は以下のとおりです。
対象者 |
書類名 |
費用 |
---|---|---|
A郎 |
除籍謄本2通 改製原戸籍2通 戸籍謄本1通 住民票除票1通 |
3750円 |
B子 |
戸籍謄本1通 住民票1通 印鑑登録証明書1通 |
1150円 |
C男 |
戸籍謄本1通 印鑑登録証明書1通 |
850円 |
– | 固定資産評価証明書 | 400円 |
登録免許税と司法書士報酬
登録免許税も必要書類と同様に必ずかかる費用です。上記例の場合、相続不動産の価値が2000万円なので、これに0.4%をかけると8万円になります。
ここから司法書士へ依頼を考えた場合、基本報酬6万円とし、戸籍などの取得費3万円と遺産分割協議書作成費1万円に消費税を加えた11万円が司法書士報酬となります。結果としてかかる金額としては以下のようになります。
- 自分で行った場合:6150円(書類費用)+8万円(登録免許税)=8万6150円
- 司法書士へ依頼した場合:6150円(書類費用)+8万円(登録免許税)+11万円(司法書士報酬)=19万6150円
これはあくまでも一例です。前述のとおり、必要書類や司法書士報酬はケースによって金額が異なるので目安として捉えてください。
自分で行うのか司法書士へ依頼するかの判断基準
相続登記を自分で行う場合、実費のみで済みますが、平日に法務局へ行く必要があり、戸籍などの書類収集に手間がかかる可能性があります。一方、司法書士に依頼する場合はその逆で、手続きにかかる手間を省くことができますが、代わりに司法書士報酬がかかります。自身の状況に応じて都合がよい手続き方法を選んでいきましょう。
なお、「相続人が多い」「相続不動産が不明」など、相続登記が複雑な案件は手続きの難易度が高くなる傾向にあるため、専門家である司法書士に依頼するという選択肢がベターと言えるでしょう。
相続登記費用を節約する方法とは
相続登記はどのような場合だと費用を節約することが可能なのかを見ていきましょう。
相続登記手続きを可能な限り自分でやってみる
相続登記費用を節約する一番いい方法は、自分で相続登記をすべて行うことであることは言うまでもありません。何しろ、司法書士報酬を節約することができるのですから。
しかし、実際に相続登記を始めてみると、いかにこの手続きが一般の方にとって難しいかを実感なさると思います。被相続人の戸籍一つとってみても、出生から死亡までのすべての戸籍を集めなければならないのですから、様々な苦労が伴います。
そこでお勧めしたい相続登記費用の節約方法としては、可能な限り自分で手続きを進め、登記申請だけを司法書士に委託するなどの方法です。司法書士報酬を何割かでも節約できる可能性があります。
相続登記する案件をセレクトする
様々な相続登記案件の中には、当然、難易度の高いものもあります。数次相続や代襲相続が発生し、相続人や相続不動産の数が多い場合などです。このような、難易度の高い案件だけを司法書士に依頼するという方法もあるかと思います。この手法を用いれば、すべての不動産登記に関する手続きを依頼するよりも、司法書士報酬は安く済みます。
なお、事務所によっては無料で相談に応じてくれる所もあるので、自身の登記状況を整理するためにも積極的に活用することをお勧めします。
相続人申告登記を用いる
令和6年4月1日から相続登記義務化が始まりました。自身に相続が開始されたの知ってから3年以内に相続登記を行わないと10万円もの過料を課される可能性があります。それに伴い、救済策として考えられたのが相続人申告登記です。
本来相続登記は、被相続人と相続人全員の戸籍や住民票などの必要書類を揃えた上で、相続登記を申請しなければなりませんでした。しかし、相続人申告登記では、申告をする相続人と被相続人の相続関係が分かる戸籍や住民票を添付して申告登記をすれば、相続登記義務を果たしたことになるのです。
相続登記費用の面から考えても、相続人申告登記は節約に繋がると言えます。勿論、司法書士に依頼すれば司法書士報酬はかかりますが、相続人申告登記自体は登録免許税が非課税です。相続登記であれば相続不動産評価額に0.4%の利率を乗じた登録免許税がかかるところを、登録免許税が1円もとられないのです。
数次相続なら中間省略登記を活用する
所有権移転に伴う所有権移転登記には、法的に権利移転に基づいて登記を行う義務があります。所有権移転の手続きが複数に及ぶ場合には、当然、各々の所有権移転に伴う登録免許税が発生します。
しかし、相続登記は数次相続の場合には、中間省略登記が認められるケースがあります。中間の相続が単独相続の場合です。この場合の単独相続とは、実際に中間相続人が1人の場合はもとより、遺産分割協議で複数いる法定相続人の中から単独相続人を決めた場合にも適用されます。
つまり、本来は数次相続の登録免許税が課されるところを、遺産分割協議書で中間相続を単独相続にすることによって、1回の相続登記分の登録免許税を負担するだけでいいのです。
相続登記の費用が心配なら司法書士に聞いてみよう
ここまで色々と相続登記の費用に関してご紹介してきました。もちろん、自分で相続登記を行えば司法書士報酬をおさえられるので、相続登記費用の節約に繋がると思います。
しかし、相続登記は戸籍などの必要書類の収集を見ても困難が伴います。また、登記申請にあたっても、少しでも間違いがあれば管轄法務局から呼び出され、平日の忙しい時間に何度も法務局に足を運ばなければなりません。それらのデメリットを考えれば司法書士に依頼するのも一つの選択肢ではないでしょうか。
相続登記で分からないことがあったら司法書士に連絡をとってみてください。相続登記の費用のご心配事も同じです。ご相談いただければきっといい結果が待っています。