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数次相続とは
数次相続(すうじそうぞく)とは、被相続人が死亡した後、相続手続きを行わない間に相続人が亡くなり、さらに相続が発生した状況を指します。最初の相続を一次相続といい、次の相続を二次相続と呼びます。これはケースによって三次、四次と相続が発生する場合もあります。
たとえば、父、母、長男、長女の4人家族で、父が亡くなり、父名義の一戸建て住宅について母と子ども2人で遺産分割協議を行う予定だったとします。しかし、不幸が重なり母も急逝した場合、父の相続が「一次相続」、母の相続が「二次相続」と呼ばれるようになります。
最終的には、長男と長女が2分の1ずつ不動産を取得するなら、一度の相続登記手続きで済ませばいいとお考えの方もいらっしゃるでしょう。しかし、不動産登記は事実の発生に沿って登記を行うのが大原則であるため、一次相続分と二次相続分の2回に分けて相続登記を行わなければいけません。
代襲相続との違い
数次相続に似た相続手続きに代襲相続があります。数次相続と代襲相続が異なる点は、相続人が被相続人よりも後に死亡したか、先に死亡したかということです。相続人が被相続人に続いて死亡した場合は数次相続となり、被相続人の相続人である人が先に死亡したときには代襲相続となります。数次相続と代襲相続の違いを具体例をあげて説明します。
家族構成・所有財産の例
- 家族構成:祖父、長男、長男の妻、長男の子
- 所有財産:祖父名義のマンション
数次相続のケース
祖父が死亡したのち、マンションの相続登記が行われないうちに長男が亡くなりました。この場合には、一度長男の死者名義に相続登記をしなければなりません。その後、長男の相続人である妻と子どもが2分の1ずつマンションを相続登記することになります。
代襲相続のケース
長男が祖父よりも先に亡くなっていた場合は代襲相続となり、マンションは長男の子どもが相続することになります。代襲相続の対象は、相続人の直系卑属、つまり子どもや孫です。子がいる場合は子が、子がいない場合は孫と順番に代襲相続していきます。なお、注意すべきは被代襲者の妻(今回のケースでは長男の妻)です。代襲相続ができるのは直系卑属であるため、配偶者は代襲相続の対象から外れることになります。
数次相続における登記手続き
数次相続における登記手続きは、通常の相続登記に比べて複雑さが増します。相続が重なることで必要書類が増え、手続きも難解になりがちです。一連の流れについてここで解説します。
相続人の確定
一次相続や二次相続など、各相続の相続人を確定する必要があります。通常の相続登記は、一度の登記申請だけで済むのですが、数次相続の場合はそれぞれの相続ごとに登記申請をしなければいけません。数次相続は煩雑な手続きとなりやすい傾向にあるため、一次相続以降に発生する相続はしっかり把握しておくことが重要です。
申請書類の作成
相続登記の申請は、不動産の所在地を管轄する法務局で行います。登記申請書は手書きでも受け付けてもらえますが、法務局公式サイトから書式をダウンロードした方が申請人の負担は少ないでしょう。もし、相続人の数が多いなど、戸籍謄本の準備が煩雑である場合は相続関係説明図も提出しましょう。相続関係説明図を提出すれば、戸籍謄本を原本還付してもらえます。
なお、二次相続以降の相続人が確定している場合は、このタイミングですべて揃えておくとよいでしょう。書類量が増えるため負担が大きくなりますが、次の段階での手続きがスムーズになり、後々の煩雑な確認作業や書類不足による遅れを避けられることができるでしょう。
登録免許税の算定
登記申請には、登録免許税という税金も納めなければいけません。固定資産評価額を課税価格とし、この価格に0.4%をかけた金額が登録免許税になります。納付方法は「申請書に収入印紙を貼り付ける」「銀行での現金納付」「オンラインによる電子納付」がありますが、収入印紙や銀行での手続きが選ばれる傾向にあります。
申請書類を管轄法務局に提出
申請書などの書類を管轄法務局に提出します。もし、申請内容や必要書類に不備があるときには、法務局から補正(修正)の連絡がきます。法務局の指示に従って対応を進めましょう。
申請に必要な書類は以下を参考にしてください。なお、各相続ごとに追加で準備する書類もあることに留意しましょう。
- 登記申請書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の最後の住所地が記載された住民票の除票(もしくは除附票)
- 相続人の戸籍謄本
- 不動産を取得する相続人の住民票(もしくは附票)
- 遺産分割協議書(遺産分割を行った場合)
- 印鑑登録証明書(遺産分割を行った場合)
- 遺言書(遺言がある場合)
- 固定資産評価証明書
- 相続関係説明図(作成している場合)
登記完了
登記が完了すると法務局から、登記完了証と登記識別情報通知(権利証)が発行され、「法務局の窓口」「郵送」「オンライン」の3つから受け取り方を選ぶことができます。自身の都合にあわせて申請しましょう。
手続き負担を減らせる中間省略登記とは
不動産登記は、事実の発生ごとに登記をしなければならず、数次相続においてもこの原則に変わりはありません。しかし、一次相続が単独登記になる場合は中間省略登記が認められ、手続きの一部が省略できることがあります。この中間省略登記とは「AからB」「BからC」への数次相続があった場合、「AからC」へ名義を変更できることを指します。
中間省略登記が認められる例
- 一次相続の法定相続人が1人であった
- 遺産分割協議により単独相続人となった
- 遺言により1人の相続人だけが不動産を相続することになった
なお、上記のような場合以外にも、自身以外が相続放棄を行ったり、1人の相続人に対し共同相続人全員から譲渡があったりなど過程に制限はありません。
中間省略登記における登記申請書の書き方
登記申請書には中間省略登記があったことを示すため、登記原因の書き方が通常とは異なります。通常の登記原因は、「令和〇年〇月〇日相続」と記載するのに対して、中間省略登記による登記原因は以下のような形式になります。
平成〇年〇月〇日(氏名)相続
令和〇年〇月〇日相続
「平成〇年〇月〇日(氏名)相続」では、一次相続が発生した日付と死亡した相続人の氏名を記載し、「令和〇年〇月〇日相続」では二次相続が発生した日付となります。
数次相続における相続税のルール
数次相続での相続税は、一般的な相続登記とは異なるルールが存在します。押さえておきたいポイントは以下のとおりです。
一次相続に発生した相続税は次の相続人が支払う
数次相続の場合には、一次相続の相続税納付義務を後次相続人が相続します。つまり、二次相続まである場合には、二次相続の相続人が一次相続の相続税の納付義務も負うということです。
相続税の申告期限の延長
相続税の納付期限は、相続の開始を知ってから10か月以内です。しかし、数次相続の場合には特例があります。一次相続人が相続税の申告をしないまま死亡した場合、二次相続人は自身に申告義務があることを知った日から10か月以内まで期限が延長されます。ただし、期限が延長されるのは該当する二次相続人だけであり、一次相続人は対象外であるため注意しましょう。
基礎控除額は増えない
相続税の基礎控除額は、「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」となります。数次相続では、一次相続の基礎控除額はあくまで一次相続が発生した時点であり、二次相続で相続人の数が増えたとしても、基礎控除額が増えることはありません。
数次相続における登記手続きの注意点
数次相続における相続登記では、複数の相続手続きが重なるため、通常よりも煩雑になる点に注意が必要です。
遺産分割協議書の書き方
数次相続の場合の遺産分割協議書の書き方は、数次相続をまとめて記載するやり方と、各相続ごとに遺産分割協議書を作成する方法があります。混乱を避ける意味からも、別々の遺産分割協議書を作成するほうがいいでしょう。
遺産分割協議書の記載内容にも、注意が必要です。遺産分割協議書には、冒頭部分に「一次相続の被相続人の生年月日、死亡年月日、本籍地、最後の住所」に続いて、「二次相続人の生年月日、死亡年月日、本籍地、最後の住所」を記載します。また、二次被相続人の頭書には「被相続人兼〇〇の相続人」と記載する必要があります。
数次相続における相続の承認と相続放棄
数次相続の場合、二次相続の相続人が一次相続の権利や義務も相続します。最終的な相続人が一次相続も二次相続も承認や放棄をすることができます。しかし、二次相続を放棄した場合には、一次相続を承認することはできません。これは二次相続を放棄した時点で相続人でなくなるためです。
数次相続が絡む相続登記でお困りなら司法書士へ
相続登記は、相続人が1人であっても煩雑で手間のかかるものです。相続人確定のための戸籍謄本や住民票など多くの書類を集める必要があり、また、法務局とのやり取りも簡単ではありません。特に数次相続が絡んでいる場合、この手続きの難易度が格段に上がり、準備や確認作業の負担が大きくなってしまうでしょう。
もし数次相続による相続登記でお困りごとがございましたら、無理をせず一度専門家である司法書士にご相談ください。手続きの流れや書類の揃え方など、複雑な部分をしっかりサポートし、相続登記がスムーズに進むようお手伝いいたします。