登記申請書とは
不動産を相続した際、所有権が自分に移ったことを証明するためには「相続登記」が必要です。これは、被相続人の名義を相続人に変更する登記手続きです。
登記申請書とは、相続登記などの権利の変動があった場合に法務局に申請する書類です。相続があったからと言っても、法務局は自動的に相続登記をしてくれるわけではありません。相続の内容を記した申請書やその他の必要書類を法務局に提出することにより、法務局は相続登記を実行してくれるのです。
なお、登記申請書には専用の用紙があるわけではありません。法務局公式サイトから書式をダウンロードするか、自分で白色のA4用紙を用意する必要があります。
登記申請書を自分で作成するメリット・デメリット
登記申請書を自分で作成する最大のメリットは、費用を節約できることです。司法書士などの専門家に相続登記を依頼すると、報酬が発生し、地域によって異なるものの、一般的には3万円から12万円程度の費用がかかります。自分で申請書を作成すれば、これらの費用を抑えられます。
一方で、デメリットも存在します。相続登記には戸籍の収集など複雑な手続きが必要で、わずかなミスがあると法務局から補正の連絡が来ることがあります。その度に平日の日中に法務局に出向く必要があるため、時間の確保が難しくなることもあります。このように、手間と時間を考慮しながら、申請書を自分で作成するか専門家に依頼するかを慎重に判断することが重要です。
登記申請書作成および申請時に必要な書類
登記申請書の書き方は、不動産の情報や申請者の基本情報を正確に記入することが大切です。申請書には、不動産の所在地や登記目的、相続人の氏名や住所などを記載します。まずは登記申請書を作成するにあたり、事前に準備しておきたい書類を解説します。
登記申請書作成時に主に必要になる書類
登記申請書を作成するにあたり、主に必要になる書類は以下の通りです。なお、相続の状況によっては、別途書類が必要になる可能性があるので注意しましょう。
- 登記原因証明情報:戸籍謄本(被相続人・相続人)、除籍謄本、住民票の除票
- 住所証明情報:相続人の住民票
- 評価証明書:固定資産評価証明書、固定資産税・都市計画税課税明細書
- その他の必要書類:登記事項証明書など
【ケース別】登記申請に必要な書類
ここでは相続登記の申請において、ケース別に準備しておく書類について解説します。これら書類についても、あくまで一例であり、状況に応じて追加で書類が必要になることもあります。
法定相続分での必要書類
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票
- 戸籍謄本と相続人全員分の戸籍謄本
- 不動産取得者の住民票
- 相続不動産の固定資産評価証明書
遺産分割協議での必要書類
- 遺産分割協議書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票
- 不動産取得者の住民票
- 相続人全員分の戸籍謄本
- 相続人全員分の印鑑登録証明書
- 相続不動産の固定資産評価証明書
遺言書での必要書類
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 不動産取得者の住民票
- 相続不動産の固定資産評価証明書
- 遺言書
- 遺言執行者の印鑑登録証明書(選任されていた場合)
- 遺言執行者選任審判謄本(家庭裁判所で選任された場合)
- 検認済証明書(公正証書遺言・遺言書保管制度を利用していない場合)
上記書類らを登記申請書作成のタイミングで揃えておくと、手続きがスムーズになるので過不足がないようにしましょう。
登記申請書の記載例
以下は、相続登記の手続きでよくあるケースでの登記申請書の記載例です。こちらを参考にしながら登記申請書を作成してみてください。書類に誤りや不備があると手続きが遅れる可能性があるため、丁寧に記入しましょう。
単独相続の場合
単独相続とは相続人が1人のみの相続を指します。相続する不動産はすべて1人に集約されるため、記載内容もほかの申請よりもシンプルになる傾向があります。
登記申請書
登記の目的 所有権移転
原因 令和〇年〇月〇日相続
相続人 (被相続人甲野一郎)
東京都〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号
乙野二郎
連絡先の電話番号(〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇)
添付情報 登記原因証明情報 住所証明情報
送付の方法により登記識別情報通知書、
登記完了証及び原本還付書類の代理人への交付を希望します。
送付先の区分:申請人の住所
令和〇年〇〇月〇〇日申請 東京法務局〇〇支局
課税価格 金〇〇円
登録免許税 金〇〇円
不動産の表示
所在 東京都〇〇区〇〇町〇丁目
地番 〇〇番
地目 宅地
地積 〇〇平方メートル
所在 東京都〇〇区〇〇町〇丁目
家屋番号 〇〇番
種類 居地
構造 木造セメント瓦・亜鉛メッキ鋼板瓦2階建
床面積 1階〇〇平方メートル 2階〇〇平方メートル
相続人が複数の場合
相続人が複数いる場合は、遺産分割の状況に応じて不動産を共有するケースもあります。その場合は氏名の前に「持分〇の〇」と記載し、遺言や遺産分割協議などで決まった共有分を記す必要があります。
登記申請書
登記の目的 所有権移転
原因 令和〇年〇月〇日相続
相続人 (被相続人甲野一郎)
東京都〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号
持分2分の1 乙野二郎
連絡先の電話番号(〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇)
東京都〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号
持分2分の1 丙野花子
連絡先の電話番号(〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇)
添付情報 登記原因証明情報 住所証明情報
送付の方法により登記識別情報通知書、
登記完了証及び原本還付書類の代理人への交付を希望します。
送付先の区分:申請人乙野二郎の住所
令和〇年〇〇月〇〇日申請 東京法務局〇〇支局
課税価格 金〇〇円
登録免許税 金〇〇円
不動産の表示
所在 〇〇区〇〇町〇丁目
地番 〇〇番
地目 宅地
地積 〇〇平方メートル
所在 〇〇区〇〇町〇丁目
家屋番号 〇〇番
種類 居地
構造 木造セメント瓦・亜鉛メッキ鋼板瓦2階建
床面積 1階〇〇平方メートル 2階〇〇平方メートル
共有不動産で被相続人の持分が相続される場合
共有名義の不動産を相続する場合、「相続人」の項目に、持分を明記するだけでなく、「不動産の表示」にも被相続人が所有していた持分を記載しましょう。
登記申請書
登記の目的 甲野一郎持分全部移転
原因 令和〇年〇月〇日相続
相続人 (被相続人甲野一郎)
東京都〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号
持分2分の1 乙野二郎
連絡先の電話番号(〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇)
添付情報 登記原因証明情報 住所証明情報
送付の方法により登記識別情報通知書、
登記完了証及び原本還付書類の代理人への交付を希望します。
送付先の区分:申請人の住所
令和〇年〇〇月〇〇日申請 東京法務局〇〇支局
課税価格 金〇〇円
登録免許税 金〇〇円
不動産の表示
所在 〇〇区〇〇町〇丁目
地番 〇〇番
地目 宅地
地積 〇〇平方メートル
持分2分の1
所在 〇〇区〇〇町〇丁目
家屋番号 〇〇番
種類 居地
構造 木造セメント瓦・亜鉛メッキ鋼板瓦2階建
床面積 1階〇〇平方メートル 2階〇〇平方メートル
持分2分の1
相続登記申請書の記載事項
相続登記申請書には、正確な記載が求められます。記載に誤りがあると手続きが遅れることがあるため、固定資産評価証明書などの公的資料を参考に自身の相続不動産の情報を記していきましょう。以下では、基本的な記載事項について詳しく説明します。
目的
「目的」には、申請する登記の内容を具体的に記載します。相続登記の場合、通常は「所有権移転」と記載し、その目的が被相続人から相続人への所有権の移転であることを明示します。この項目の記載は、申請内容を正確に反映させるための重要な部分となります。なお、被相続人の所有の形態によって目的の記載が変わります。
- 単独所有の場合:所有権移転
- 共有持分だった場合:〇〇持分全部移転(〇〇は被相続人名)
- 単独所有と共有不動産の場合:所有権移転及び〇〇持分全部移転
日付・原因
日付は、相続が発生した日、つまり被相続人が亡くなった日を記載します。原因欄には登記を行う理由を記載しますが、相続登記の場合は「相続」となります。
相続人
相続人の記載方法は、被相続人の氏名(括弧書き)と住所と、相続人の氏名と連絡先を記します。なお、相続人の署名横に印鑑を押印しますが、シャチハタは不可です。実印で朱肉が使える印鑑を使用するようにしましょう。
添付書類
相続登記申請書を提出する際には、所定の添付書類が必要となります。これらの書類は、相続の事実や相続人の資格を証明するために不可欠です。前述で解説した登記申請に必要な書類を過不足なく揃えましょう。
なお、「戸籍謄本」や「戸籍の附票」などの具体的な書類名を記載する必要はなく、「登記原因証明情報」と「住所証明情報」と記載すれば問題ありません。
送付先の区分
相続登記申請書における「送付先の区分」は、登記申請書がどのように処理され、どこに送付されるかを明確にするための項目です。
ここの送付される書類とは登記が完了した際に送られる、「登記完了証」や「登記識別情報」を指します。この「登記識別情報」とは数字とアルファベットを組み合わせた12桁の英数字となっており、第三者が分からないように袋とじで目隠しされています。
平成17年の3月以降は「登記識別情報」が権利証の代わりとなっております。不動産を売却したり贈与などを行う際に使用する重要な書類のため、大切に保管しましょう。なお、戸籍謄本などの添付書類を原本還付する希望を添えていた場合は、これら書類も返却されます。
申請年月日と管轄法務局
申請年月日は、実際に申請する日付を記載します。窓口で申請した場合は申請書を法務局に提出した日付ですが、郵送になると申請書を郵送したときの日付になります。法務局名は不動産の住所を管轄している法務局になりますが、不明な場合は法務局公式サイトをチェックし、所定の管轄法務局を記載するようにしましょう。
課税価格と登録免許税
登記申請にあたって、登録免許税という税金を法務局に納めなくてはならず、この金額を算出するには課税価格を求める必要があります。この課税価格とは相続によって取得した不動産の評価額のことで、主に固定資産評価証明書に記載されている金額を用います。
登録免許税は登記の種類の税率が異なり、相続登記の場合は0.4%と決まっています。この課税価格に0.4%を乗じた金額が登録免許税の金額となります。なお、納付方法は収入印紙での手続きが多い傾向にあります。
不動産の表示
相続登記申請書における「不動産の表示」は、相続によって取得する不動産を特定するために必要な項目です。この項目では、相続対象となる不動産の詳細を正確に示すことが求められます。
不動産の所在地や種類、地番・家屋番号などの必要な情報は、不動産登記事項証明書(不動産登記簿謄本)の表題部にある情報を参考に記載しましょう。くれぐれも省略や誤記には注意しましょう。法務局から申請書の補正や取り下げの対象になってしまう可能性があります。
相続登記申請書の綴じ方
相続登記の申請書と添付書類の綴じ方は、提出先の法務局でスムーズに処理してもらうために重要です。書類はクリップやホチキスでしっかり綴じ、各書類が紛失しないよう注意が必要です。各書類は以下の順番で綴じるようにしましょう。
- 登記申請書
- 収入印紙貼付台紙(登録免許税分の収入印紙を貼付)
- 相続関係説明図
- 遺産分割協議書のコピー(遺産分割協議による相続の場合)
- 印鑑登録証明書のコピー(遺産分割協議による相続の場合)
- 遺言書のコピー(遺言相続の場合)
- 固定資産評価証明書のコピー
- 被相続人の住民票あるいは戸籍の除附票のコピー
- 不動産を取得した相続人の住民票あるいは戸籍の附票のコピー
登記申請書類の綴じ方について、1~9の書類をホチキスで留めてファイルにまとめ、登記申請書と収入印紙貼付台紙の間に契印を行います。4~9の書類は原本還付のためコピーを添付し、申請印で契印します。4のコピーには「上記書類は原本と相違ない」と記載し、申請者の住所氏名と申請印を捺印します。また、相続関係説明図を添付すれば、戸籍謄本も原本還付が可能です。
次に以下の書類の原本も提出します。下記の1~7はクリップで挟み、ファイルにまとめてください。
- 戸籍謄本(原本)
- 遺産分割協議書の原本(遺産分割協議による相続の場合)
- 印鑑登録証明書の原本(遺産分割協議による相続の場合)
- 遺言書の原本(遺言相続の場合)
- 固定資産評価証明書の原本
- 被相続人の住民票あるいは戸籍の除附票の原本
- 不動産を取得した相続人の住民票あるいは戸籍の附票の原本
登記申請書に関するよくある疑問
登記申請書に関する疑問は、手続きを進める中で多くの方が抱えるものです。例えば、書類の作成方法や提出時の注意点など、申請時の細かな手順についても、不安を感じる場面があるでしょう。こうしたよくある疑問に対して、分かりやすく解説していきます。
登記申請が取り下げられたら納めた登録免許税は返還される?
登記申請が取り下げられた場合は、登録免許税は指定口座に還付されます。収入印紙を用いていた場合は、所定の手続きを取れば、収入印紙の再使用もできます。
申請書が複数枚に分かれた場合は?
申請書が複数枚に分かれた場合は、各ページに通し番号を付けるとともに、ページ間に契印を行う必要があります。契印とは、各ページにまたがって印鑑を押すことで、書類の一体性を証明するための手続きです。これにより、申請書がバラバラになったり、内容の差し替えを防ぐことができます。なお、申請人が複数の場合でも、契印はその中の1名分で効果を発揮します。
登記申請書は手書きでもいいのでしょうか?
法務局では、手書きで作成された申請書も受理されます。ただし、手書きには誤字などの書き損じが生じる恐れがあるので、丁寧に書くことが重要です。万が一、記載内容が不明瞭だったり誤りがある場合は、法務局から訂正を求められるため、可能であれば訂正対応が容易なパソコンなどの使用をお勧めします。
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相続登記の手続きは、必要な書類の収集や複雑な手続きが多く、個人で進めるのは非常に大変です。このため、時間や手間を節約するためにも、専門家に依頼することが有効です。
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