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登記すると発行される登記識別情報とは
登記識別情報とは、所有権移転や抵当権設定などで権利を得た場合に、法務局から発行される情報を「登記識別情報」と言います。アルファベットや数字をランダムに羅列した12桁の文字列で、平成17年3月17日の不動産登記法改正により、それまでの登記済権利証に代わり発行されることとなりました。
通常は、「登記識別情報通知」という書面に、権利者の住所氏名、不動産の情報などと共に12桁の文字列も記載されます。12桁の文字列の部分は、重要な情報であり、目隠しシールや書面下部の折り込み(袋とじ)により他人から見られないしくみになっています。
登記済権利証との違い
登記識別情報と似た言葉で、「登記済権利証」というものをお聞きになったことがあるかと思います。俗にいう「権利証」のことです。平成17年の法改正前は、不動産の権利を取得した証明として法務局から発行されていました。具体的には、権利を取得した契約書や申請書に法務局が「登記済」の印を押し、その者が登記名義人であることを証明したものです。
平成17年の法改正以前に権利を取得した場合には、登記識別情報ではなく登記済権利証が発行されています。もちろん、有効な書面であり、売買などにより所有権などの権利を新たに移転する場合には使用することができます。
登記識別情報が発行されるタイミング
登記識別情報が発行される対象は、「申請人でありかつ登記名義人」となる者だけです。つまり、登記名義人にはなるが申請人ではない者、または申請人ではあるが登記名義人ではない者には登記識別情報は発行されません。
登記識別情報が発行される不動産登記の種類は、所有権や抵当権などの権利を取得するときです。抵当権抹消登記や登記名義人の名義変更登記の際には、発行されません。登記識別情報が発行される時期は、登記完了後、1~2週間後ぐらいです。
登記識別情報が必要となるケース
登記識別情報が必要になるケースとは、所有権の登記名義人が売買や贈与により所有権を移転したり、金融機関から融資を受け抵当権を設定した際の登記申請時に、法務局へ申請するときです。登記識別情報は、通常、登記名義人しか知り得ない大事な情報です。その大事な情報を提供するのだから、その者が登記名義人に間違いないはずだと、法務局は判断するのです。
所有権移転の際、相続登記の場合は登記識別情報が不要になります。これは登記名義人たる被相続人はすでに死亡していることから、相続人の単独申請となるためです。
登記識別情報通知の記載内容
登記識別情報を書面で受領する場合、その通知を「登記識別情報通知」と言います。登記識別情報通知には、いくつかの記載内容があります。以下、それらの記載内容について説明します。
不動産の表示
不動産登記簿謄本(不動産全部事項証明書)と同じく、「所在」「地番(土地)」「家屋番号」など不動産の情報が記載されます。
不動産番号
不動産には、登記されると固有の番号が付されます。それを「不動産番号」と呼びます。不動産番号も登記識別情報の記載内容です。
受付年月日・受付番号
不動産登記を申請すると管轄法務局ごとに「受付年月日」と「受付番号」が付されます。登記申請を特定するためです。登記識別情報にも「受付年月日・受付番号」が記載されます。
登記の目的
「所有権移転」や「抵当権設定」などの登記の目的も記載内容です。
登記名義人
所有権移転登記における「所有権者」や抵当権設定登記における「抵当権者」など、その登記名義人を記載します。
登記識別情報
アルファベットや数字など12桁に羅列された文字列です。従来の登記済権利証に代わるもので、非常に大切な情報です。目隠しシールや書面の下部を折り込む形(袋とじ)で他人には、絶対に見られない構造になっています。
登記識別情報通知の様式
登記識別情報通知には、「目隠しシールタイプ」と「書面下部折込タイプ(袋とじタイプ)」のパターンがあります。それぞれの特徴について説明します。
目隠しシールタイプ
12桁の文字列の登記識別情報通知を、「目隠しシールを貼る形で隠したタイプ」です。登記申請の際、目隠しシールを剥がして登記識別情報をデータとして法務局に提供します。
なお、この目隠しシールは剥がれにくい場合があり、無理に剥がそうとすると登記識別情報の読み取りができなくなる可能性があります。もし、この状況に陥ってしまったら最寄りの法務局へ持ち込んで相談するのがよいでしょう。
書面下部折込タイプ(袋とじタイプ)
目隠しシールタイプの支障点を改善する形で考えられたのが、「書面下部折込タイプ(袋とじタイプ)」です。平成17年2月23日から使用されています。登記識別情報通知の書面下部を折り込む形で、12桁の文字列を隠す様式となっています。折込の部分(袋とじ部分)がミシン目の点線になっていて、点線を切り取り中を開けることによって、登記識別情報を確認することができます。
登記識別情報に直接シールを貼る訳ではないので、剥がれにくいということもなくなり、登記申請にも支障は無くなりました。新様式の登記識別情報通知には、12桁の文字列の横にQRコードが設けられています。QRコードを読み込めば、登記識別情報を取り入れることができます。
登記識別情報の受け取りと保管方法
登記識別情報の受け取りと保管方法は、「書面申請」と「オンライン申請」によってそれぞれ方法が違います。それぞれの内容と違いについて説明します。
登記識別情報の受け取り
書面申請による登記識別情報の受け取り方法は、書面によってしか受領することができません。登記完了後に、管轄法務局の窓口で直接受領するか、あらかじめ郵送での受領を希望することによって郵送受領をすることもできます。
注意していただきたいのは、受領期限が決まっていることです。登記完了後、3か月以内に受領しない場合は、登記官によって登記識別情報は失効されてしまいます。オンライン申請による登記識別情報の受け取りは、書面による受領もオンラインによる受領のどちらも認められています。
書面による受領は、書面申請の場合と同じです。オンライン申請の場合は、登記申請に利用した「登記・供託オンライン申請システム」で「手続き終了」が表示されたら、「処理状況表示画面」から「公文書ボタン」をクリックして登記識別情報をダウンロードすることができます。
オンラインによる受領の場合も、登記識別情報の受領期限が決まっています。書面による受領の場合は、やはり登記完了後3か月以内です。オンラインによる受領は、もっと期限が短く、登記完了後30日以内にダウンロードしないと登記官によって登記識別情報は失効されてしまいます。
登記識別情報の保管方法
登記識別情報は、従来の登記済権利証と同じく非常に大事な情報です。書面による受領の場合は、金庫など厳重な管理ができる場所での保管をおすすめします。その際、目隠しシールや書面の折込部分(袋とじ部分)は剥がさず、他人の目に触れさせないようにしましょう。
オンラインによる受領は、データ自身をパソコンで保管することも可能です。しかし、パソコンの不具合でデータが破損する危険があることから、USBメモリーなどの別媒体に保管することをおすすめします。
できれば、登記識別情報をPDF化して書面にプリントしておいた方がいいでしょう。プリントした書面を封筒に入れ、金庫などで保管すれば万全です。
登記識別情報がない場合の登記申請方法
登記識別情報がないと聞くと不思議な気がするかもしれません。しかし元々、登記識別情報の通知を希望しなかったり、登記識別情報を紛失・失念したり、あるいは失効の手続きをしていた場合には、登記識別情報を提供することができません。
その際には、登記識別情報の提供に代わるものとして以下の制度が認められています。
- 事前通知制度
- 司法書士の本人確認制度
- 公証人の認証制度
これらの制度は、登記識別情報が提供できない場合や、紛失された際に利用されます。以下にそれぞれの制度の詳細を説明します。
事前通知制度
事前通知制度とは、登記識別情報が提供できない売主などの登記義務者に対して、管轄法務局が「登記義務者に間違いがないか」との書面を出し、登記義務者が「間違いがない」旨の書面を返送するものです。法務局からの事前通知は本人限定郵便であり、登記義務者は事前通知に同封されている法務局所定の書面を返送することとなります。
返送には期限があります。法務局が事前通知を発送した日から2週間以内(海外に居住する場合は4週間以内)に法務局で返送が確認できないと、登記申請は却下されます。くれぐれも期限には注意してください。
資格者代理人(司法書士)の本人確認制度
資格者代理人(司法書士)による本人確認制度も認められています。ただし、本人確認ができるのは、今回の登記申請代理人となった資格者だけです。資格者代理人が「本人確認した年月日や場所」などの本人確認の経緯、登記申請の内容、登記識別情報を提供できない理由などを記載した書面を作成します。それらの書面に免許証などの本人確認書類のコピーを添付します。
資格者代理人の本人確認を登記申請時、登記識別情報の代わりに提出することによって登記申請に不備がない取り扱いとなっています。ただし、資格者代理人に本人確認を作成してもらうため、司法書士報酬が発生することには注意が必要です。
公証人の認証制度
公証役場に行き、登記原因証明情報などの登記義務者の署名捺印が必要な書面に、登記義務者が公証人の面前で署名捺印をして、公証人が登記義務者本人で間違いないとの認証をします。
その認証を受けた登記書類を添付して登記申請することで、登記識別情報の提供に代えることが認められています。ただし、公証人に認証してもらう関係から、認証代などの費用が必要となります。
登記識別情報の有効証明と不失効証明
売買などの所有権移転の場合、売主が所有する登記識別情報が有効かどうかは大切な情報となります。なぜなら、売主は自分の登記識別情報を失効させることができるからです。登記識別情報の有効性を調べる手段として、「登記識別情報の有効証明」と「登記識別情報の不失効証明」があります。
登記識別情報の有効証明
登記識別情報が有効であることを登記官に証明してもらう制度です。請求は、書面請求でもオンライン請求のどちらでも可能です。ただし、12桁の文字列が有効かどうかを確認してもらうため、あらかじめ登記申請の前に、登記識別情報を隠している目隠しシールを剥がしたり、書面下部折込タイプだと袋とじの部分を切ったりしていると、登記識別情報が外部に漏れる恐れがあります。また、有効証明請求には手数料が300円かかります。
登記識別情報の不失効証明(不通知・失効証明)
逆に登記識別情報の不失効証明をすることによって、登記識別情報の有効性を証明することもできます。不失効証明とは、登記識別情報が不通知になっていないか、もしくは失効していないかの証明を登記官が証明するものです。書面でもオンラインでも請求はできます。
不失効証明を請求して、もし登記識別情報が有効な場合は、法務局から「証明できません。登記識別情報が通知され、かつ失効していません」との通知が届きます。
間接的な証明かもしれませんが、登記識別情報が失効していないということは、有効だろうと推測ができます。不失効証明の場合は、あらかじめ登記識別情報自体を開示する必要はないため、大切な情報が外部に漏れる恐れはないと言えます。登記識別情報の不失効証明も300円の手数料がかかります。
登記識別情報通知・未失効照会サービス
簡易的な証明方法ですが、登記識別情報の有効性を確認する方法として「登記識別情報通知・未失効照会サービス」というものがあります。手数料はかかりませんが、登記官による証明はありません。また、書面による請求は認められておらず、オンラインでしか請求できません。
登記識別情報に関する注意点
登記識別情報は、不動産の権利を証明する重要な情報です。適切に保管し紛失や第三者への漏洩を防ぐことが非常に重要になってきます。ここでは登記識別情報で覚えておきたい注意事項などを詳しく解説します。
登記識別情報は再発行できるか
「登記識別情報の発行を最初から希望していない」「登記識別情報の失効の手続きをした」「登記識別情報を紛失・失念した」などの理由から、登記識別情報をお持ちではない方がいらっしゃいます。そんな場合、登記識別情報の再発行は可能なのでしょうか。
答えはノーです。登記識別情報は、登記申請時に申請人である登記名義人が希望した場合に一度だけ発行されるものです。いかなる理由があろうとも、法務局は登記識別情報を再発行してくれません。
こういった場合で所有権移転登記などで登記識別情報が必要なときは、事前通知制度、資格者代理人(司法書士)の本人確認制度、公証人の認証制度などの代用制度を使うしかないので注意してください。
登記識別情報はほかの重要書類と一緒に保管しない
登記識別情報は、登記済権利証と同じ意味を持つ非常に大切な情報です。あわせて印鑑登録証明書や実印の保管場所も他人に知られてしまった場合には、その他人が登記名義人に成りすまして不動産の所有権を移転させてしまうことさえ可能なのです。こういったリスクを回避するため、これら書類はすべて同じ場所で保管するのではなく、別々の場所に保管することをおすすめします。
登記識別情報の紛失・盗難時の失効手続き
登記識別情報は、登記済権利証と同じ意味を持つ非常に大事な情報です。紛失や盗難によって他人の手に渡った場合には、不正な登記をされる恐れがあります。そういった事態を防ぐためにも、「登記識別情報の失効手続き」が定められています。失効手続きは、登記識別情報が発行された管轄法務局に申し出ることができます。
書面による手続きも、オンラインによる手続きも認められています。成りすましや不正登記からご自身を守るためにも、登記識別情報の紛失が発覚した際はすぐに失効手続きを取ったほうがいいでしょう。
登記手続きでお困りなら司法書士へ
登記識別情報は登記済権利証と同じ意味を持つ非常に大切な情報ですので、くれぐれも紛失や盗難には気をつけてください。また、他人に不用意に見られない様に厳重に保管をしましょう。もし、登記識別情報のことでわからないことや、登記のことでご不明な場合は専門家である司法書士にご相談ください。